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ブロックチェーンは、量子コンピューターとのカーチェイスに競り勝てるか
これは新しい時代の幕開けだ!と興奮していたら、最後にものすごいオチがあったでござる。

ブロックチェーンにまつわる興奮は別記事に譲るとして、ブロックチェーンがいかに破壊力のあるイノベーションなのか、ということを、複数の証言を元に、スクリーン照射した渾身の一作。

これは「第四の波※1」だ!ブロックチェーンによって、AppleとかFacebookに搾取されているデジタルアイデンティティを奪還できるぜ、ひゃっふー!

…と思ってたら、きわめて大きな数字の素因数分解をものすごい超高速で実行できる量子コンピューターってのがあって、ブロックチェーンの公開鍵はだいたい解けちゃうよ、てへ。ってさ。

※1 アルビン・トフラーの「第三の波」の次、ってことです

Farewell to all brokers!! or…
Welcome to BIG BROTHER
with the quantum computer??


すでに中国ではBIG BROTHERが本格始動しており※2、ジョージ・オーウェルの世界観が急速拡大中。しかも、そこに量子コンピューターが投下される。中国でのブロックチェーン技術、関連特許数は世界トップだし※3、杭州にブロックチェーン工業団地なるものも作ってるみたいですが※4。ある程度の仕組みが整ったタイミングで、量子コンピューターの制御下にごそっと入らないだろうか。ブロックチェーン関係者 in China の生の声をぜひとも聞きたいところ。

とはいえ、ブロックチェーンであれ、量子うんたらであれ、今後はあらゆるものに履歴がつく流れは必定。その履歴をAIが自動的に引っ張ってきて業務のマッチングもしちゃう。それは、仕事の要件定義が非常に求められるシビアな世界なわけで、エコシステム※5が成長する分水嶺が、発注能力の有無に収斂されそうな予感ビンビンです。YESとNOの単純な質問項目で構成されたタスク設定を、現在業務の海から拾ってくるのはなかなか歯ごたえがあって、顎が疲れそう。。

※2 14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動へ準備  
※3 China leads blockchain patent applications       
※4 中国、ブロックチェーン工業団地開所、100億元のファンド創設も発表
※5 もはや「組織」という枠組みが古いような気がして、エコシステム(生態系)という言葉を使ってみました



また、DAppを利用したリアルタイム在庫管理で、商品の受注が自動的に工場に入ってくるという近未来。これまで人間がやっていた折衝・交渉という概念はなくなり、冷徹なデータによって、最適解が弾き出されます。
しかも、人間はネット上の自律エージェントとデスマッチ。
非生命のアプリが繰り出す恒常的パフォーマンスに霊長類最強のホモ・サピエンスは勝てるのでしょうか。ぼくはちょっと自信ない。。

あと、個人的なオススメは、巻末の若林恵さんによる自作自演インタビューです。
自己ってこんなふうに客体化できるんだ!と新鮮な驚きとともに、グイグイ引き込む文章力に舌を巻きすぎて、脳内口中でサクランボの枝をクロスできました。この若林流表現手法、どこかで試すぞ。うむ。

以下、雑感。

2014年にフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドで世界初のブロックチェーン結婚式が行われた。婚前契約をブロックチェーンに書き込む例が出てきた。そして、同僚の河崎くんが2018年4月にやはりブロックチェーンに結婚の履歴を残している。なんだかぐっと身近に感じる。

あと、この本に書いてある、ブロックチェーンを阻む壁(課題)は2018年5月現在で、どこまで解消されているですかね。教えて、佐藤くん!

以上、ごちそうさまでした!
アイデンティティを自分の手に取りもどす

 新たなメディアが誕生するごとに、人は未知の領域に踏みだしてきた。情報を記録するメディアはいわば時空を超え、死を超越する力を人類に与えてくれる。そうして神の力を手に入れたとき、人は本質的な問いに直面する。
 私は誰なのか。人であるとはどういうことか。自分とはいったい何を意味するのか。
 マーシャル・マクルーハンが見抜いたように、メディアはやがてメッセージになる。人はメディアをつくり、メディアが人をつくり変える。脳は適応する。組織も適応する。社会全体が適応する。
 「しかるべき機関からカードを発行してもらって、それがアイデンティティになるわけですよね」とワイスキー社のカルロス・モレイラは言う。生まれたときの出生証明書が、あなたの最初のIDだ。そこに数々の情報が結びつき、記録される。ブロックチェーン時代になれば、出生証明書から学費ローン、その後のやりとりをすべてひとつのチェーンに記録するということも可能になる。
 「きみは、きみのプロジェクトだ」とかつてトム・ピーターズは言った。人を規定するのは、所属する会社や肩書きではないという意味だ。今ならこう言えるだろう。「きみは、きみのデータだ」
 ただし問題がひとつある。「アイデンティティは自分のものなのに、その行動を記録したデータは誰か別の人の手に渡っています」とモレイラは言う。企業はそうした行動の軌跡をもとにあなたのことを判断する。各種データを集めてバーチャルなあなたを構築し、バーチャルなあなたに対して数々の便宜を図ってくれる。ただし、タダで手に入るものなどない。代償となるのは、あなたのプライバシーだ。
 「プライバシーは死んだ。あきらめろ」と言う人もいる。でもそう簡単にあきらめるわけにはいかない。プライバシーは自由な社会の基盤なのだから。
 「人はアイデンティティという概念をかなりシンプルに捉えています」とブロックチェーン技術者で情報セキュリティ専門家のアンドレアス・アントノプロスは言う。アイデンティティという言葉には、自分と、世の中に映る自分のイメージ、そして自分やそのイメージに付属する数々の属性がざっくり含まれているようだ。そのなかには持って生まれたものもあれば、国や企業に付与されたものもある。いくつもの役割を兼任することもあるし、時とともに役別が雀わることもある。世の中のニーズが変わり、会社組織が今われば、あなたの役割もそれに応じて変わってしまう。
 けれど、もしもバーチャルな自分を自分だけのものにできたらどうだろう。つまり自分というものをブラックボックス化して、外から操作できないようにするのだ。何かの許可を得るときは、それに関連するデータだけ見せればいい。そもそも、なぜ運転免許証に個人情報がすらすらと書かれているのだろう。運転免許試験に合格したという情報だけでいいじゃないか。
 インターネットの新たな時代を想像してみてほしい。あなたは自分をさらけだす必要はなく、バーチャルなアバターを見せるだけでいい。そのアバターがブラックボックスの中身を厳重に管理し、きれいに整理整頓しながら、状況に応じて必要な情報だけを開示してくれる。
 まるで『マトリックス』や『アバター』の世界みたいに思えるかもしれない。でもブロックチェーン技術を使えば、そんなことが可能になる。コンセンサス・システムズのジョセフ・ルービンCEOは、これを永続的なデジタルID兼ペルソナ」と呼ぶ。
 「友達と話すときと銀行と交渉するときでは、別々の顔を見せますよね。オンラインのデジタル世界でも、いろんなペルソナを使い分けて、その時々で違う側面を見せるようになると思います」
 ルーピンは代表となるペルソナをひとつ置き、納税やローンの借り入れ、保険加入などはそのペルソナでおこなうことを想定している。
「そのほかに仕事のペルソナや家庭のペルソナを持っておいて、そっちのペルソナはローンのことなんか気にしないわけです。ゲームをするときはゲーマーのペルソナもほしいですよね。闇のペルソナもひとつつくって、別人みたいにネット上で行動しているかもしれない」
 ブラックボックスのなかには、官公庁が発行した身分証や、健康状態、財政状況、学歴、資格、その他あらゆる個人的な情報が含まれている。そのなかの限られたデータを、限られた期間だけ、限られた目的のために開示することができる。眼科に行くときとヘッジファンドに投資するときでは、見せたい情報も違うはずだ。そしてあなたのアバターは質問にイエスかノーで答え、それ以外の余計な情報は漏らさない。「あなたは20歳以上ですか?」「過去3年を通じて年収が10万ドル以上でしたか?」「体重は標準範囲におさよっていますか?」
 物理的な世界では、あなたの評判は場所に縛られている。近所のお店の人や上司や友人が、それぞれあなたに対する意見を持っている。一方、デジタル世界の評判は、距離を容易に超えられる。あなたがどこにいようとも、ペルソナの評判を上げることは可能だ。アフリカの奥地に住む人が電子ウォレットを活用し、世界中で得た評判をもとに「ほら、これだけ信用があるんですから起業資金を貸してください」と言うことだってできる。
 あなたのアイデンティティはもはや企業の道具ではなく、あなた自身の武器になるのだ。(p17-20)




 マネジメントの分野では、ホラクラシーというおもしろい試みが始まっている。ホラクラシー型の組織には階層が存在せず、メンバーが自主的にやるべき仕事を決定し、必要な権利と責任を割り当てていく。「この活動は誰の権限で実行すべきか?」という問いの答えを、メンバーの合意で決定するわけだ。スマートコントラクトを使えば、そうした権限設定やゴール、インセンティブなどの情報を明確な契約データに落としこむことが可能になる。
 もちろんこれはテクノロジーだけの問題ではない。より大きな視野で、権利マネジメントに対する人びとの意識を高めていく必要があるだろう。やがて選挙権や財産権など、社会のあらゆる権利をブロックチェーンで管理する時代がやってくるかもしれない。(p65)




 サブレジャー社を立ち上げて会計業界に参入したトム・モーニニは、既存の会計処理を「点滅するストロボライトの前で踊る人を見ているようなもの」と表現する。「踊っていることはわかりますが、動きはよく見えません。かっこよく見えても、見えないところで何をやっているかはわからないんです」
 要するに会計監査は、過去のスナップショットを眺めているにすぎないというのである。そこから企業の財政状況を把握するのは、ハンバーグから牛を再現するような仕事だ。
 大企業は会計記録が透明化されることを好まないだろう、とモーニニは言う。誰でも見えるようにするなどもってのほかだし、監査の人間に見せることさえ嫌がるのではないか。帳簿の内容は企業のきわめて重要な秘密だ。それに経営者には、収益の計上の仕方や減価償却の方法、営業権の扱いなどにある程度の自由度を残しておきたいという気持ちもある。
 だとしても、やはり利益のほうが大きいはずだ、とモーニニは考える。コスト削減という意味だけでなく、透明性を高めることで市場価値が上がるからだ。
 「このやり方を最初に取り入れた会社は、株価や株価収益率の面でかなり優位に立つことになるでしょう。投資家にしてみれば、四半期の決算まで何をやっているかわからない会社よりも、つねに情報がクリアになっている会社のほうが投資しやすいですよね」
 四半期決算などとぬるいことを言っている会社は、そのうち投資家から見捨てられるかもしれない。実際、今も機関投資家の多くは厳しいコーポレート・ガバナンス要件を課していて、それを満たさない企業には投資しないという方針をとっている。その条件に三式簿記が含まれてくる可能性は十分にある。(p98-99)



マネジメントの終焉

 コンセンシスでは、すべての従業員(「メンバー」と呼ばれる)が経営方針の決定に参加している。ルーピンは会社を車輪の「ハブ」にたとえる。中心となるハブから、いくつものプロジェクトが「スポーク」として広がっているイメージだ。
 「シェアできるものは何でもシェアします」とルーピンは言う。「ソフトウェアのコンポーネントもそうです。小回りのきく小さなチームで動いていますが、チーム間でつねにコラボレーションしています。オープンでリッチなコミュニケーションに満ちた職場です」
 メンバーは自分の仕事を自分で決められる。トップダウン型の指示は存在しない。各メンバーは常時2〜5個のプロジェクトに関わっていて、やるべき仕事を見つけたら自発的にそれを引き受ける。
 「みんなでよく話し合うので、やるべきことはつねに認識されています」とルーピンは言う。ただし、やるべきことは刻々と変化する。「アジャイルであるということは、優先順位をどんどん変化させるということです」
 ルーピンは上司ではない。アドバイザーに近い役目だ。どの仕事を進めるべきかという相談がスラック(Slack)やギットハブ(Github)などのツールを通じて聞こえてくると、ルーピンは全体の仕事がもっともうまく進むような配分を考えて方向性をアドバイスする。
 メンバーに強いインセンティブを与えているのが、プロジェクトのオーナーシップだ。コンセンシスのメンバーは全員、各プロジェクトの一部を直接・間接的に所有している。これは各プロジェクトのトークンという形で付与されていて、トークンはイーサリアムの通貨イーザーに交換できる。もちろんイーザーから各国通貨に交換することも可能だ。
 「独立と支えあいのちょうどいいバランスをめざしています」とルーピンは言う。「僕たちの仕事のしかたは、自立したエージェント同士のコラボレーションなんです。この先、誰もやりたくないけれど誰かがやらなくてはいけない仕事が出てきたとしたら、外部から誰かを雇ったり社内でインセンティブを調整する必要はあるかもしれません。でも基本的には、みんな自己管理のできる大人です。コミュニケーションが活発だという話はしましたよね。よく話し合って、それぞれ自分で判断するんです」
 メンバーはそうした話し合いを通じてやるべき仕事を決定し、仕事を自主的に分担し、役割や報酬を調整する。そして、決まった内容を「すみずみまで明確な、自動的に執行される取り決め」に記述する。
 「これが僕たちの関係のビジネス的な側面をひとつに結びつける役目を果たしています」とルーピンは言う。
 取り決めのなかには成果に対する報酬もあれば、基本給に当たるイーザー支給もある。さらに、タスク単位(特定のコードを書くなど)で志願者を募るバウンティハンター方式もある。条件を満たす成果物を仕上げたら、決められた賞金が付与されるというしくみだ。ルーピンは言う。
 「すべてはオープンで、目に見える形になっています。インセンティブにもあいまいなところはありません。だから率直にコミュニケーションできるし、クリエイティブになれるし、状況に合わせて適切な動きができるんです」

進化する企業

 コンセンシスのやり方は、ブロックチェーン時代の企業のあり方をいち早く体現していると言えるだろう。
 ただし、ルーピンはまだ満足していない。現在のコンセンシスはまだ試行錯誤の段階なのだ。彼らが将来的にめざしているのは、人間によるマネジメントを完全に廃し、スマートコントラクトが全体を制御する自律分散型の組織だ。
 そんなことが本当に可能なのだろうか?
「もちろん可能です」とルーピンは言う。「グローバルな分散型ネットワークという基盤の上に巨大な知性が展開するんです。専門の部署を寄せ集めた大企業という構造は否応なく変わっていくでしょうし、人間ではなくソフトウェアが自由市場のなかで協力・競争するようになるはずです」
 とはいえ、中央で意思決定する経営者がいない場合、リスクもあるのではないか。プログラムにまかせておいて、それがとんでもない方向に進みだしたらどうするのだろう?
 「僕は人工知能の暴走ということは心配していません」とルーピンは言う。「人工知能がもっと進化すれば、やがてマシンという位置づけを超えて、ホモ・サピエンス・サイバネティカと呼べる状態になっていくと思うんです。人を超えて進化するかもしれませんが、そうなったとしても適切な住み分けができてくるでしょう。そもそも機能するスピードが違うし、時間軸も違う。人工知能は人の営みと地質学的な変化を同一に見るかもしれません。人間だって多くの種を追い越して進化してきましたが、おおかたうまく共存できています」
 コンセンシスはまだ動きはじめたばかりだ。その壮大な実験が成功するかどうかはわからない。でも彼らのストーリーは、企業というものの未来形を垣間見せてくれる。(p112-115)




ブロックチェーンは検索コストをどう変えるか

 インターネットは検索コストを大幅に削減し、会社の外から必要な人材を見つけてくることを可能にした。アウトソーシングはその出発点にすぎない。たとえばP&Gは積極的にアイデアゴラ(頭脳のオープンマーケット)を活用し、世界中のユニークな才能の持ち主とコラボレーションしてきた。事実、P&Gのイノベーションの6割は会社の外で生まれたものだ。
 ブロックチェーンを使えば、こうした社外とのコラボレーションはもっとシームレスに実行できる。より少ない労力で、精度の高い情報を手に入れることが可能になるのだ。
 誰がどんな発見をして、それを誰に売ったのか。いくらで売れたのか。誰がこの知的財産を所有しているのか。このプロジェクトを動かせる人材は誰か。この病院にはどんな医療技術があるか。誰がどんな手術をし、どんな結果になったのか。中国と取引経験のある業者はどこか。この業者は予算内で期限を守って納品してくれるか。
 これらの情報はブロックチェーン上に、改ざんできない形で記録されている。不確かな経歴書や、大げさな宣伝文句に踊らされる心配はない。情報は正確で完全だ。ネットワークによる評価スコアを見れば、信頼できる相手かどうかはひと目でわかる。
 イーサリアム考案者のヴィタリックーブテリンは言う。
 「ブロックチェーンは検索コストを低下させ、その結果として一種の分解が起こります。これまでの一枚岩的な組織ではなく、水平方向と垂直方向に分割されたエンティティの市場が出現するのです。これは今まで存在したことのないものです」(p117-118)




 インターネット上には情報があふれている。でもその大半は信頼性が低く、いつ書き換えられるかわからない。一方、ブロックチェーンの情報は厳選されていて、知らないうちに書き換えられたり消されたりする心配がない。
 「必要であれば何百年でも、何千年でも、完全な情報を保存しておけるのです」とアントノプロスは言う。
 人類の記録媒体が石板から紙へと進化したとき、情報は永続的なものから移ろいやすいものへと変化した。だがブロックチェーンの登場によって、ふたたび石のように堅牢で永続的な記録が主流になろうとしている。そうなれば、企業は情報の確かさを疑うことなく、安心して外部の人材や企業に仕事をまかせることができるだろう。
 コンセンシスはすでに、求職者や取引先候補と情報をやりとりするためのアイデンティティ・システムの構築に着手している。求職者が自分のペルソナを作成し、就職や取引に必要な情報だけを企業に公開できるシステムだ。個人情報を盗まれたり悪用されたりする心配がなく、データを誰かの金儲けに利用されることもない。リンクトインのような営利企業にデータを預けるよりも、ずっと安心して活用できるはずだ。
 このようにブロックチェーンは、人材や取引先を検索するコストを大幅に削減してくれる。情報が簡単に検索できるだけでなく、情報の嘘や間違いをなくすことでトラブルのないスムーズな人材探しが可能になるのだ。(p120-121)




2 オープンネットワーク型企業(ONE)
 スマートコントラクトによって契約コストが削減されれば、多様で複雑な契約のネットワークを築くことが可能になる。
 企業の内側と外側の区別はあいまいになり、どこの誰とでもシームレスな取引が実現できる。企業の境界は薄れ、ビジネスは今よりずっと流動的でフレキシブルなものになるはずだ。
 DAppを利用したリアルタイムの在庫管理で、商品の受注は自動的に工場へ入ってくる。工場の生産管理もブロックチェーン上でおこなわれ、足りない部品があれば世界中からサプライヤーを検索して値段と納期を比較し、そのまま契約から支払いまで実行できる。発注にはほとんど手間がかからないし、支払いはスマートコントラクトが自動でやってくれる。自社の倉庫から部品を取り寄せるような感覚で、世界中から部品を購入することができるのだ。
 配送状況はピンポイントに確認できるので、細やかなスケジュール管理が可能になる。納期が遅れそうなときには早い段階でアラートを受けとれるし、業者との調整もDAppでスムーズに実現できる。仕事が遅い業者はDApp共通の評価システムで低い評価がつき、候補から自動的に外されていくだろう。
 外注業者とのコラボレーションもスマートコントラクトで柔軟に設定できるし、契約や支払いなどの事務処理に時間と人手を割く必要はない。あるプロジェクトで人手が足りないときは、オープンプラットフォームで仕事を依頼すればいい。きちんと要求レベルを満たしたものが納品されれば、自動的に代金が支払われる。メールで面倒なやりとりをする必要さえない。
 企業間の壁はメッシュのように風通しがよく、やわらかいものになっていくだろう。オープンなネットワークは生産性を大幅に向上させ、より少ない労力で大きな価値を生みだすことを可能にするはずだ。

3 自律エージェント
 小さなソフトウェアがウェブ上を歩きまわっているところを想像してほしい。自分のウォレットを持ち、ほかのソフトウェアとやりとりして必要なリソースを獲得しながら、学習と適応を繰り返して目標達成に近づいていく。
 自律エージェントという言葉には、いくつもの定義がある。この本では、自分で周囲の環境を読みとり、状況判断しながら仕事をするデバイスやソフトウェアを自律エージェントと呼びたい。自律エージェントは「インテリジェントな」ソフトウェアと呼ばれることもある。本物の知性を持っているわけではないけれど、単に決められたことをやるだけのプログラムとは本質的に異なるものだ。人間がいちいち指示しなくても、自律エージェントはその場に応じて適切な行動をとれる。
 自律エージェントの例としてよく言及されるのが、コンピューター・ウイルスだ。ウイルスは自己複製を繰り返しながらマシンからマシンへと移動し、人の手を介さずに生存している。ただし、ブロックチェーン上でウイルスが生き延びるのは難しくなるだろう。公開鍵に紐づく評価スコアや取引履歴を見れば、関わりたくない相手であることは一目瞭然だ。
 人の役に立つ自律エージェントの例としては、たとえば世の中のコンピューターから余ったリソースを借りてきて、アマゾンに匹敵する規模の処理能力を実現するクラウド・コンピューテイング・サービスが考えられる。自動運転車で街を周回し、乗客を目的地まで送り届けて適切な支払いを受けとるタクシーサービスも出てくるだろう。人が指示しなくても、ソフトウェアが勝手にリソース獲得から売買、価値の創造まで請け負ってくれるのだ。
 イーサリアムのヴィタリック・ブテリンは、こうした自律エージェントを体系的に分類し、その進化を論じている。一方の端に位置するのは、ウイルスのように限られた目的に向かって単一の機能をこなすエージェントだ。それが少し進化すると、いくつかの決まった供給者(例:アマゾン)からリソースを借りてくるなどの、汎用性の高い仕事が可能になる。もっと洗練されたエージェントになると、検索エンジンを駆使して新たな調達先を探すこともできるようになる。
 さらに進化が進むと、自分自身のソフトウェアをアップグレードし、新たな形のリソース獲得手段(エンドユーザーに対価を払って未使用のディスク領域を少しずつ借りてくるなど)を自分で考案することさえ可能になる。こうした学習と発見のプロセスは、究極的には高度な人工知能につながっていく。(p138-141)




4 自律分散型企業(DAE)

 ここから話はSFの世界に近づいてくる。
 20XX年、自律エージェントはさらに進化し、ミッションステートメントと一連のルールのもとで互いに協力しながら仕事をする共同体を形成した。彼らは力を合わせてサービスをつくりあげ、人間や組織を相手にビジネスを実行する。
 人間の役目は、彼らに計算能力と資金を与え、仕事ができるように送りだすことだ。あとはエージェントが勝手に人やロボットを雇い、必要に応じて生産設備や専門知識を持つパートナーと手を組みながら、臨機応変に仕事を進めてくれる。
 この自律エージェントの共同体は、多数の株主によって支えられている。グラウトファンディックで世界中から多様な人が出資し、意思決定に参加しているのだ。株主たちはまず、ミッションステートメントを決める。たとえば「合法的に利益を上げ、すべてのステークホルダーに対して誠実に対応する」などの基本方針だ。そして株主は必要に応じて経営方針の投票をおこなう。
 従来の組織と違うのは、日々の意思決定のほとんどをプログラムにまかせてしまう点だ。もうマネジメント職を置く必要はない。自律エージェントたちは、少なくとも理論上では、指示がなくても自分で適切に判断して行動できる。スマートコントラクトに組み込まれた方針にしたがって動けばいいのだ。だからCEOに多額の報酬を支払う必要はないし、肩書きだけの管理職や無駄な社内手続きも不要になる。もちろん社内政治も存在しない。ソフトウェアは明確な目的に向かって合理的に仕事を進めていく。
 人間の従業員やパートナー企業も、スマートコントラクトのもとで仕事をすることになる。給料は月給や週給ではなく、決められた仕事を完了した瞬間に受けとることが可能だ。従業員が人であろうとソフトウェアであろうと本質的な違いはないので、気づいたら自分に指示を出していたのがソフトウェアだったということもあるかもしれない。でもソフトウェアの上司は無茶ぶりをしないし、礼儀正しく接してくれるはずだ。スマートコントラクトのなかにマネジメント科学を組み込み、仕事の割り当てと評価を誰もが納得できる形で実行できれば、人びとは今よりずっと楽しく働けるようになるだろう。
 顧客は迅速で公平なサービスを受けられるし、株主はリアルタイム会計のおかげて今より高い頻度で配当を受けとれるようになる。経営は明確なルールのもとで公明正大におこなわれ、まるでオープンソース・ソフトウェアのように見通しのいいビジネスが実現される。
 これが自律分散型企業(DAE)の世界だ。ブロックチェーン技術と暗号通貨を基盤として多数の自律エージェントが手を結び、まったく新たな企業体を形成していく。
 非現実的だろうか? そう思うのも無理はない。でもブロックチェーンの先駆者たちはすでに、イーサリアムなどを利用して高度なアプリケーションを実装しつつある。暗号通貨は実用化されているし、世界中の人たちが少額から出資できるしくみもすでに実現されている。DAppが自律エージェントへと進化し、協力的なコミュニティをつくり上げる日はそう遠くないだろう。(p142-144)




3 シェアリング・エコノミー
 信頼のプロトコルは、人びとの協力関係を後押しする。同じ目的を持つ人が手を結び、共通のニーズを満たすために力を合わせて行動できるようになる。
 「Uberをシェアリング・エコノミーと呼ぶのは馬鹿げています」とヨハイ・ベンクラーは言う。「あの会社がやっているのは、モバイル技術を利用して低コストの交通手段を提供すること。それだけですよ」
 ビジネス戦略に詳しいデヴィッド・ティコルも同意見だ。
 「シェアという言葉はもともと、分け合うことを意味します。金銭のやりとりではありません」
 人間本来のシェアというあり方が、一部のビジネスによって既められているのではないかと彼は危惧する。
 「なかには本物のシェア精神を持ったウェブ企業も存在しますが、ほとんどは自分たちの利益のためにシェアという言葉を乱用しています」
 シェアリング・エコノミーと呼ばれるビジネスをよく見ると、その実態はサービスの集積であることがわかる。集中型のプラットフォームにサービス提供者を集めてきて、ほしい人に転売しているのだ。その過程で人びとの大事なデータをたっぷり収集し、金儲けのために利用している。
 Airbnbは部屋の貸し手を集めることでホテル業界に対抗し、Uberは運転手を集めることでタクシーやリムジン業界に対抗するビジネスだ。もともとローカルで小規模なサービスを提供していた人たちは、大企業に手数料を払って仕事をさせてもらう立場に低められる。
 でもブロックチェーンなら、サービス提供者が主体となって新しい働き方をつくっていくことができる。ベンクラーは次のように説明する。
 「ブロックチェーンは、共同で働きたい人びとに信頼性の高い記録手段を提供します。権利、資産、証書、拠出金などの記録を、Uberのような企業のかわりにやってくれるわけです。運転手が集まって自分たちのUberをつくろうと思えば、完全に対等な形で実現できます。ブロックチェーンがそれを可能にするのです」
 ブロックチェーン版のAirbnbやUberが登場する日は近い。本物のシェアリング・エコノミーが社会に浸透し、その実りは大企業ではなく人びとの手に戻ってくることだろう。(p149-150)




 その昔、人びとは顔の見える生産者から肉や野菜を買っていた。「どこの誰が育てた肉」という当たり前の情報を知って食べていたのだ。ところが冷蔵技術と輸送手段の発展によって、僕たちは生産者から切り離されてしまった。口に入れているものが何なのかわからないまま食事をすることが普通になった。
 でも今なら、つながりを取りもどすことができる。最先端の技術を活用しながら、ローカルで顔の見える取引をすることが可能になるのだ。誠実なやり方をしている生産者は高く評価され、人びとは信頼できる農場の肉を買うようになるだろう。情報の透明化によって生産者側の意識も高まり、より安全な生産へと向かっていくはずだ。(p155)




 たとえば、フェイスブックの企業版をブロックチェーンに移行したらどうなるか考えてみよう。すべてのユーザーには多機能のウォレットが付与され、これが分散オンライン世界へのポータルとなる。ウォレットはポータブルなペルソナまたはアイデンティティを格納できるほか、個人データや仕事上の情報、お金なども収納して一括管理できる。もちろん、情報をどこまで公開するかは個人の自由だ。ウォレットには永続的なデジタルIDに紐づく代表ペルソナをひとつ登録する必要があるけれど、ほかにも複数のペルソナを格納できる。場合に応じて自由にペルソナを使い分ければいい。
 そこにパブリッシング・システムで発信された情報がシームレスに流れてくる。同僚が書いたコード、クライアントとの打ち合わせ議事録、電話の録音データ(もちろん相手の許可が必要だが)、欠席した会議のツイッターフィード、新製品導入のストリーム動画、イベントでの競合企業ブースの写真、プレゼン資料、新しいツールの紹介ビデオ、特許の出願アシストなど、どんな情報もまとめて確認することが可能だ。
 人事部から保険プランのお知らせなど広告的なコンテンツが流れてくることもある。そのメッセージをきちんと確認したら、フェイスブックではなくあなた自身にいくらかの報酬が入る。関心を払ったことに対する報酬システム、いわばアテンション・マーケットだ。広告の閲覧のほか、プレゼンヘのフィードバックや書類のアップロードなど、ちょっとした仕事にマイクロペイメントでお礼をすることもできるだろう。
 デジタル時代においては、価値のあるものが生き残る。リナックスが商用OSを打ち負かしたように、分散型のソーシャル・プラットフォームは既存のソーシャルメディアを打ち負かすことだろう。ブロックチェーンなら、ユーザーの情報が政府に売られることもない。あなたが何を読み、何に関心を持っているかを国に知らせる必要はないのだ。情報を提供するかしないかを決めるのは自分だし、情報の対価を受けとるのも自分だ。企業に搾取させておく必要はない。
 こうしたソーシャル・プラットフォームを活用すれば、企業の内側でも外側でも価値あるコラボレーションが次々と創発されるだろう。企業はよりオープンになり、イノベーションが加速され、株主や顧客、社会のためにより大きな価値を生みだすことができる。(p156-157)




 スマートコントラクトは所有権を規定し・管理するものだが、権利の譲渡は前提としていないし、人の判断で権利を差し押さえたり所有者を移動したりすることもできない。たとえば、役人が間違った人の名義で土地を登録してしまった場合、後から本当の持ち主が出てきても登録を取り消すことはできない。
 これほどまでに高い確実性を持った取引や契約は、これまで社会に存在しなかった。契約が強制力を持てば、社会はより効率的に機能するだろう。でもその一方で、人の裁量や妥協の余地がまったくなくなってしまう。一方はスマートコントラクトの契約どおりに遂行したと主張し、もう一方はその結果に不満があるというようなすれ違いも出てくるかもしれない。ワシントン&リー大学法科大学院のジョシュ・フェアフィールドは言う。
 「混乱が減るどころかむしろ増えるでしょう。『こんなのリノベーションとは呼べない、だから金を返せ』というような争いが起こると思います。技術のせいではありませんが、いざこざは増えますね」
 さらにアンドレアス・アントノプロスは、人のアイデンティティが脅かされるのではないかと指摘する。
 「デジタル・アイデンティティというものに僕は脅威を感じているんです。なぜならショートカットが可能だからです。もしもアイデンティティを融通のきかないデジタル世界に移してしまったら、アイデンティティの性質は現在の社会的なものとはかなり異なるものになるでしょう。ファシスト的な恐ろしいものになるはずです」
 人びとのアイデンティティと社会のルールが厳密にコード化されたら、機械が人びとを支配するディストピアが出現するのではないか。デ・フィリッピとライトも、その点を危惧している。
 「法的な安全装置が存在しない状態で、分散化された組織の高度なネットワークが人の行動を規定するのです」(p290-291)




 ビットコインをして「仮想通貨」なんて呼んだりするけれど、よくよく考えてみれば、単なる紙切れをいそいそ交換していることからして、すでに「お金」というのはずっとヴァーチャルな存在なわけで、「お金」というものの、その根源的なヴァーチャル性をつきつめて行こうとすると、話は古代史よりももっと古い人類史へと分け入っていかねばならぬ事態になっちゃうんですよ。「人はなぜお金を必要としたのだろう?」「その起源は?」なんてことを考えることは、人間社会、組織、共同体、国家といったものの成り立ちそのものを考えるみたいなことになっちゃって、これはもう途方もない話です。いずれにせよ、「お金の民主化」というのは、普通に考えて、近代世界の構成上あるまじき事態であって、インターネットがそれを可能にしてしまうのが明らかである以上、ぼくらは、近代世界を形作ってきたシステムそのものがひっくり返り得る、その歴史的転換のとば口に立っているのかも、ということが、まあ、その特集を通じて、見えてきちゃったんですね。(p366)




「ヴァーチャル国家」というテーマに関するセッションに、ブロックチェーン関係者がこぞって呼びこまれているのを見て、まず何を思ったかというと、「ブロックチェーンは、やっぱフインテックの話じゃないんじゃんか!」つてことです。エストニアっていうのは、実際には相当狂った国で、以前、このe‐residentのプログラムを主導した政府CIOにインタビューしたことがあるんですけど、彼は「e‐residentみたいなことをどんどん進めていっちゃうと国家ってどうなるんですか?」という質問に、「いい質問だな。うーん。わかんないな」とかって答えちゃうんですね。すごくないですか?(笑)

−たしかに。

 デジタル化、インターネット化があらゆる領域にまで及んでいくと、それは、いずれ国家というものを規定していた領土や国民っていう概念さえ変えてしまうということを、割とラジカルな形で彼らは受け入れようとしていて、そうしたなかで、ブロックチェーンは、その前進を下支えし、さらに加速させるドライバーとなることが期待されているということが見て取れたんです。つまり、「お金の未来」の特集をやったときに垣間見た「歴史的な転換」を、より現実的なものとして、しかも、金融だけでなく、社会のさまざまな領域において進行させる契機としてブロックチェーンが扱われていることに、ぼくとしては感銘を受けて帰ってきたんです。「新しい未来が見えた!」ってな感じです。

-特集になるな、と。

 ですです。ぼくは、その日の残りを、カンファレンスはそっちのけで、ネットにかじりついて、海外のブロックチェーン事情について猛然と情報を漁って過ごしたんですが、ブロックチェーンがもたらす分散型の世界を信じる20歳そこそこのスペイン出身の天才エンジニアやら、「会社」というものがない世界を実現すべく、ブロックチェーン・テクノロジーを使ったお仕事プラットフォームをつくっている元クリエイターやら、音楽やゲームといった領域でそれを活用すべく新サービスを立ち上げた起業家、さらにはブロックチェーンを選挙や法、不動産管理といったものにまで援用すべく動きが、活発に立ち上かっているのがわかってきて、これは面白いとなったんです。

-それが単にお金やビジネスの話を超えて、文化や社会制度にまで話が及んでいる、というところが面白さのポイント、ですか?

 あ、もちろんそこは大きなポイントのひとつだと思いますね。フィンテックの話じゃねえぞ、というのは、特集で言いたかったことのひとつでしたし、それがトータルとして、数百年続いた近代世界の構成、ありよう全体をディスラプトする可能性を持つかもしれない、という意味において、その破壊性はもちろん魅力的なんですが、でも、ぼくがやっぱり一番面白いと思うのは、その先にありうる世界を、より具体的な「夢」として思い描くことを可能にしてくれるというところなんです。

−夢。

 銀行消滅! 国家消滅! なんて言っても、もちろん一朝一夕でそんなことは起こるはずはなくて、ブロックチェーンだって、当然、実装レベルにおいては、現実的な困難やハードルは山ほどあるわけです。でも、ブロックチェーンというコンセプトは、世界をまったく違った目で捉えることを可能にしてくれるし、現状のシステムやパラダイムのオルタナティブを提示し、そこに新しい「夢」を見ることを可能にもしてくれるわけです。そのことが、まだまだ発展途上にあるこのテクノロジーが今ぼくらに与えてくれる一番大きな恩恵なんだと思うんです。(p370-372)
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