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LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
評価:
リンダ グラットン,アンドリュー スコット
東洋経済新報社
¥ 1,944
(2016-10-21)

自分の価値にたいする仮説が立てきれていない人、来たれーー!

平均寿命100才超え、という衝撃のデータで「オレ(わたし)何年生きるんだっけ」という漠然とした人生設計の甘さを殴打してくれる名著。

明晰なロジックで足場が築かれているにで、読めば読むほど、著者の提唱する絶望的、いや福音的な?世界観への肯定感が強まります。
1998年生まれで、100歳まで生きると仮定。65歳で引退するとしたら、老後生活は35年。これを実現するためには今の給料の25パーセントを貯蓄に回さないといけないとか。歯ごたえがありすぎて顎が疲れる。。

そんな世知辛い人生設計を促す文章の中で救いなのは、

手元の武器(資産)がなんなのか、人生のどの時期でどのようなは武器を手に入れていけば良いのかが仮説が立てられる

ということ。無形の資産の価値に気がつきます。


ちなみにぼくが今手元にある無形資産といえば、

・精神面を除く体力
・家族や友人との良好な人間関係
・借金ゼロ(教育ローンがない)、家賃ゼロ(実家暮らし)

あたり。


運動を継続して活力資産を微増させつつ、上記3つを足場に生産性資産を緩やかにあげたいです。その先に有形資産を蓄積したい!
とりあえず、最初の第一歩として、知人でファイナンシャルプランナーの清水斐さんに、10万円からスタートできる資産運用を相談したいと思います(ビッグ5全問不正解)。
柔軟性に富んだ「スマートーシテイ」が台頭する

 変わるのは、どういう企業で働くかという点だけではない。働く場所も変わる。いま私たちは、人類史上最も特筆すべき大移住を目撃している。それは、農村から都市への人口移動である。2010年、世界全体の都市生活者の数は36億人だった。2050年には、それが63億人になると見られている。これは、毎週130万人が都市に移り住む計算だ。都市で暮らすこと、とりわけいわば「スマート・シティ(賢い都市)」に住むことを望む人が増えているのだ。この点は今後もおそらく変わらない。
 なぜ、これほど多くの人が都市に住みたがるのか? インターネットが登場した当時、この新しいテクノロジーにより物理的な距離が重要性を失い、私たちは自分の好きな場所で暮らせるようになると言われていた。しかし実際には、確かに「遠さ」の弊害は問題でなくなったかもしれないが、「近さ」の価値はむしろ高まっている。いま世界規模で起きている都市への大移住は、新興国における農業から工業へ、農村から都市への移動がすべてではない。先進国でも都市への人口流入が起きている。これは、質の高いアイデアと高度なスキルの持ち主のそばに身を置くことの重要性が高まっていることの表れだ。
 実際、アメリカではデトロイトのような一部の工業都市が衰退する一方で、サンフランシスコやシアトル、ボストンなどのスマート・シティは経済的に繁栄し、人口も増えている。これらの都市には、質の高いアイデアと高度なスキルをもち、自分と同様の高スキル層の多い町に住みたいと考える人たちが集まってくる。そのような土地でこそイノベーションが急速に進むことを知っていて、ほかの聡明な人たちのそばで暮らし、互いに剌激し、支援し合いたいと考えるからだ。
 こうした人材の集積地(クラスター)は、最初は地元の大学の卒業生グループによって形成されはじめる場合が多い。高いスキルをもった人材が集まれば、企業はおのずとその町に引き寄せられる。そうすると、多くの雇用と高い賃金に誘われて、さらに多くの高スキルの人材がやって来る。集積地はそれこそ磁石のように、優秀な人材を呼び寄せるのだ。集積地の規模が大きくなればなるほど、その町で働くことの価値が高くなる。経済学で言う「ぶ厚い市場」の効果である。
 集積効果が発揮されている実例としては、ロンドンも挙げることができる。2014年の時点で、ロンドンの高スキル層の人口は140万人だった。2019年には、これが180万人に上昇すると予想されている。イギリスの首都であるロンドンに多くの企業や政府機関が拠点を置き、その結果として弁護士や金融関係の専門職を大勢引きつけるのは、最近に始まった現象ではない。この集積効果は昔から強く作用してきた。しかし、最近のロンドンは、多くの企業が拠点を置くだけでなく、デザインの中心地として世界中から創造的な人材を引き寄せてもいる。聡明な人材と質の高いアイデアの集積効果が生まれるのは、IT産業だけではないのだ。アイデアが生み出す経済的な価値がもっと大きくなれば、さらに多くの集積地が出現するだろう。互いのアイデアを利用し、互いに支援し合い、新興企業が活躍できるエコシステムを築こうとする人たちが集まれば、そこに集積地が形成される。
 高度な創造性を備えた集積地の核を成すのは、多くの場合、世界レベルの大学だ。シリコンバレーには、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニアエ科大学があるし、ボストンには、マサチューセッツエ科大学(MIT)とハーバード大学がある。ロンドンの創造性の集積地は、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)とセントラル・セントマーチンズ(CSM)という世界屈指の二つのデザイン専門大学と密接な関係にある。
 集積地の規模が拡大すれば、充実した人材市場に引き寄せられて多くの企業が集まってくる。ロンドンのキングスクロスにあるセントラル・セントマーチンズのすぐそばには、グーグルが広さ約10万平方メートルのロンドン・オフィスを設けた。最終的には、ここで4500人以上が働くようになるという。
 高スキルの人材が集まるスマート・シティは、きわめて大きな雇用剔出能力を発揮する場合もある。カリフォルニア大学バークレー校の経済学者エンリコ・モレッティの著書によれば、町に高スキルの雇用が一つ生まれれば、さらに五つの雇用が生み出されるという。その五つの雇用のなかには、弁護士や会計士、コンサルタントなどの高学歴・高賃金の職も含まれるし、庭師や職人、バリスタ、ヨガ・インストラクターなどの非高学歴・低賃金の職も含まれる。このI対5という比率を考えると、スマート・シティの雇用剔出能力は、旧来の製造業の拠点都市を上回る。
 スマート・シティの重要性は、経済的要因だけでなく、社会的要因によっても増幅されている。この数十年、社会学者の言う「同類婚」が際立って増えている。自分と教育・所得レベルが近い人を結婚相手に選ぶ傾向が強まっているのだ。この現象も都市の成長を後押ししている。どういうことか? 高いスキルの持ち主同士の夫婦がそれぞれやり甲斐のある職を見つけることは、夫婦の片方だけがそのような職を見つけるよりずっと難しい。夫が外で働き、妻が主婦として家庭にとどまる伝統的家族の場合は、小さな町のほうが暮らしやすかったかもしれない。しかし、小さな町では、夫婦の両方が自分に最適な職を見つけることは難しい。その点では、雇用の機会が多い大都市のほうが魅力的だ。
 大都市は、まだ結婚していない人にとっても魅力が大きい。あなたが結婚相手を探しているとしよう。あなたは高いスキルの持ち主で、自分と同等の教育・所得レベルの相手と結婚することを望んでいる。そういう相手と小さな町で巡り会えるだろうか? 可能性はなくはないが、おそらく難しいだろう。そこで、同類婚を望む高スキルの人材は大都市に向かう可能性が高い。結婚相手探しでも「分厚い市場」は強みを発揮するのだ。こんなことを言うと、ロマンチックなムードはぶち壊しかもしれないが……。
 スマート・シティは、柔軟な働き方が実践される最前線にもなるだろう。テクノロジーのイノベーションのおかげで、人々は仕事をする場所と時間を柔軟に選べるようになる(その結果、在宅勤務やバーチャル勤務が増える)。それに、求職者と企業や、同じ関心をもつ人同上が出会いやすくなり(労働市場への参入がしやすくなる)、コミュニケーションもより手軽に、安価になる(バーチャルなチームやグローバルなチームを組んで仕事をすることが容易になる)。そして、多くの人が協力して問題を解決する余地も大きくなる(同じようなスキルや考え方の持ち主を集めて、大規模なコミュニティを築ける可能性が高まる)。
 「オフィス」という概念がばかばかしいくらい古臭く、あまりに無駄だと考えられるようになる可能性もある。以前、ユニリーバの幹部たちが温室効果ガスの排出源を調べたところ、会社への通勤が莫大な量の温室効果ガスを生み出していることがわかった。この問題も一因になって、自宅で仕事をしたり、勤務先の会社が地区ごとに設ける小規模な仕事場や、誰もが利用できる地域のコミュニティセンターに出勤したりするケースが増えるだろう。ホログラム(立体映像)やバーチャル会議などのテクノロジーの低価格化も、この潮流に拍車をかける。企業のマネジャーたちがバーチャル・チームのマネジメント技術を磨き、在宅勤務への理解を深めるにつれて、こうした働き方が当たり前になっていく。ただし、在宅バーチャル勤務を拡大するにあたっては、前述した地理的な「近さ」の重要性とのバランスがつねに問われることになる。(p97-101)




まわりの人の重要性

 まわりの人の重要性は、ハーバード・ビジネススクールのボリス・グロイスバーグの興味深い研究がくっきり浮き彫りにしている。ある人が自分だけで生み出す価値と、周囲の人間と一緒に生み出す価値のどちらが大きいかを明らかにするために、ウォール街の投資銀行で働く1000人以上の花形アナリストを調べた。アナリストの生産性がすべて、その人物が個人で蓄えている知識によって決まるなら、その人がほかの投資銀行に移籍しても成績は変わらないはずだ。それに対し、アナリストの成績が周囲の人たちの力にも助けられているなら、移籍したあとは成績が下がると予想できる。調査の結果、正しいのは後者の仮説だとわかった。アナリストたちは知識をそっくり別の会社にもっていけず、移籍直後に個人の成績が落ち込む傾向が見られたのだ。彼らの成績は、長期にわたり回復しない場合が多かった。
 どうして、知識とスキルを新しい会社にもっていけないのか? このことから、どのような教訓を導き出せるのか? 個人の知識が生産性と成果に転換される過程は、会社がもっている資源や組織文化など、その会社に特有の要素の影響を強く受ける。そして、グロイスバーグの研究が明らかにしたように、ある人のスキルをどのくらい成果に転換できるかは、会社によって大きく異なる。だから、自分の知識を最大限生かしたければ、どの会社で働くかを慎重に選んだほうがいい。自分のもっている知識やスキルに合った職場を選ぶことが重要だ。
 グロイスバーグの研究から見えてきたことがもう一つある。それは、投資銀行のアナリストの成績が同僚ネットワークに大きく後押しされているということだ。その効果は、チームのメンバーが信頼し合い、互いの評判を大切にしているとき、ことのほか大きい。それを裏づけるように、アナリストが移籍しても成績が落ちなかったり、むしろ上昇したりしたケースはほぼ例外なく、チームのメンバーと一緒に移籍していた。しかし、会社を移った花形アナリストの多くは、チームのメンバーと切り離された結果、「スター」どころか「流れ星」のようになり、新しい職場でたちまち輝きを失う。
 このような人脈や人間関係は、生産性資産の重要な要素だ。これを「職業上の社会関係資本」と呼びたい。強力な人間関係を築いている人は、ほかの人の知識を容易に取り込み、自身の生産性を向上させ、イノベーションを促進できる。高い信頼性と評判をもつ人たちと緊密な協力関係を築くことにより、白分か個人で蓄えているよりずっと広い知識と見方を得られるのだ。そのような人間関係は、他人と協働して働くための豊かな土壌を生み、さまざまな見方を組み合わせる機会をつくり出す。イノベーションを成し遂げるうえでは、多様な視点を組み合わせることがとりわけ重要だと言われている。
 なかでも重要なのは、小規模な仕事仲間のネットワーク、それも相互の信頼で結ばれた強力なネットワークらしい。そのようなネットワークのメンバーは、互いに似たようなスキルと専門知識をもっていることが多く、職業上の成長を支え合うことができる。著者(グラットン)は以前の著書で、こうしたネットワークを「ポッセ」と呼んだ。同じ志をもつ仲間のことである。この強力な職業上のネットワークのメンバーは、信頼し合い、互いのコーチや支援者になり、人脈を紹介し合い、貴重な助言を送り合う。
 では、ポッセはどうやって築けばいいのか? 社会関係資本の多くがそうであるように、それは一朝一夕では築けない。自分と同様のスキルと知識をもつ人たちとの関係を深めるために多くの時間を費やし、その人たちと直接対面して会話する時間も割かなくてはならない。高度な専門知識がはぐくまれ、共有されるためには、そのような時間が必要なのだ。(p137-139)




 2033年のジェーン▼30代半ばのジェーンには、どういう選択肢があるのか? 一つの選択肢は、自分の事業を成長させ、永続的な企業に育てるというものだ。長く起業家を続けるつもりなら、好ましい道だろう。しかし、そういう人生に魅力を感じない場合は、どのような選択肢があるのか?。
 ジェーンは、このあと10年ほどの間に金銭的資産を築かなくてはならないと自覚している。これまでは無形の資産を築くことに専念し、人生を楽しんできたが、そろそろ長い人生に向けて資金面の準備を整える必要がある。エクスプローラーとインディペンデント・プロデューサーのステージは楽しかったし、多くのことを学べた。自分の得意なことを知るきっかけになったし、革新と変化の出発点にもなった。そして、評判が広まってオンライン上の存在感が強まったジェーンは、大企業の幹部たちの目にとまり、数社から入社を誘われる。食とエンターテイメントの分野での充実した経験、質の高い人脈、それに、新しい取り組みを成功させ、顧客のニーズを理解してきた実績が評価されるのだ。声をかけてきたなかに、有名な食品企業の「イートウェル社」も含まれていた。マーケティング担当の幹部がウェブサイトを見て、食とエンターテイメントを一体化させていることに感心したのだ。オンライン上の活動を強化し、世界中の食関連のイベントを紹介したいと思っていた同社は、その担い手としてジェーンを招きたいと考えた。
 数々の新しい取り組みを成功させ、顧客とじかに接してきた経験に基づいた知識をもつジェーンは、交渉により、それなりの給料と地位から出発できた。これは、大学を出てすぐに就職したジャックには考えられないことだった。ジェーンの世代にとってこれが可能になるのは、企業が様変わりし、自社のビジネスのエコシステム(生態系)のなかにどのような人物がいるかを把握して、最も有能な人物にアプローチすることが上手になるからだ。社内でいわば高速レーンを走ってきた人物ではなく、社外の幅広いネットワークに目を向けて、革新的で有能な人物を探す企業が増えるだろう。
 30代半ばで大企業に加わったジェーンは、企業の文化にすぐにはなじめない。新興企業から大企業に移った多くの人がそうであるように、意思決定がうんざりするくらい遅く、アプローチがあまりに官僚的だと感じるのだ。それでも、ジェーンは大企業で成功したいと思っていて、いくつかの国際的な役職を歴任し、その都度給料が大幅に跳ね上かっていく。
 この時期にも、生産性資産の強化が続く。職業上のアイデンティティは、「ベンチャーの人物」から「大企業の世界で活動できる人物」へと変貌する。ビジネス界の知識と専門技能も充実させていく。ラテンアメリカで過ごした経験により、持続可能なサプライチェーンの構築という難題について深い理解を得られたことに気づき、このテーマに関する知識をさらに増やすために、3日間時間を取って専門のセミナーに参加する。それを通じて、ほかの企業関係者やNGO関係者など、それまで接点がなかった人たちと知り合う。
 イートウェル社での2年目、そうした人的ネットワークを土台に一つの企画を提案する。アマゾン地方やアフリカのルワンダのグループから、食品の新しいフレーバーの原料を購入するというアイデアだ。ジェーンはこのプロジェクトでビジネスの実際を知リ、目が回るくらい忙しい日々を送る。一方、環境の持続可能性と農産物の輸送に関して農家と協力している地元のNGOとの関係も深めていく。ブログを頻繁に更新したり、持続可能なサプライチェーンに関する記事を書いたり、講演をしたりして、職業上の評判を確立することにも腐心する。
 活力資産も引き続き強化する。子ども時代や旅行中に知り合った友人たちと連絡を絶やさず、強力な友人関係を保つ。同世代の多くの女性と同じく、パートナーを見つけて子どもをつくることは先延ばしにしてきた。しかし、すでに30代半ば。出産に適した年齢の上限が近づいている。前述のように、平均寿命が延びるのと一緒に出産可能年齢も延びるというデータはない。20代半ばで卵子を凍結保存した友人たちもいるが、ジェーンはそれをしておらず、出産時期という大きな問題に直面する。そんなとき、ブラジルを旅行中に、地元のNGOで働くジョルジェという男性と知り合う。持続可能性の問題に情熱を燃やす人物だ。二人の間に恋が芽生える。ジェーンは37歳で長女のリリーを、2年後に長男のカルロスを出産する。夫婦は若いブラジル人のベビーシッターの力を借りつつ、家庭の用事を分担しておこなう。(p205-207)




 エクスプローラーのステージは、あらかじめ1年と決められたギャップイヤーとは違う。それは、もっと長期間続く人生のステージだ。エクスプローラーは、周囲の世界を探査し、そこになにがあり、その世界がどのように動いているか、そして自分がなにをすることを好み、なにが得意かを発見していく。このステージは、自分を日常の生活と行動から切り離すことから始まる。新しい町に移ってその土地の人たちと知り合ったり、知らない国を旅して自分の生き方について考えたりといった具合だ。エクスプローラーがおこなう探検は、単なる観察で終わらせずに、さらに一歩踏み込んだときに最も効果がある。観光客が旅先の街を見物するような態度では、大きな成果は得られない。望ましいのは、関わりをもつことだ。ジェーンの場合は、ラテンアメリカの屋台商たちと関わり、ビジネスの仕組みを積極的に学ぼうとした。
 エクスプローラーたちがなにを目指すかは、人によって異なる。「捜索者」型の人たちは、特定の問いの答えを見つけるために旅に乗り出す。目的地がわかっていて、そこに向けて旅に出るのだ。ナイル川の源流を突き止めようとしたヘンリー・スタンリーを思い浮かべればいい。スタンリー隊は、どの道に進むべきかは知らなかったが、ナイル川の源流を探すという目的ははっきりしていた。それと同じように、問いをもって捜索に乗り出す。「私にとってなにが重要なのか?」「私か大切にするものはなにか?」「私はどういう人間なのか?」ーーこのタイプの人たちの旅は、こうした問いに答えることを目的にしている。
 一方、特定の問いをもたないエクスプローラーもいる。新しいものを発見する喜びを味わうために旅に出る「冒険者」たちだ。この人たちの目的は、「はしゃいで跳ね回る」こと。そうした冒険を通じて紡ぐストーリーーなにを見て、誰と出会い、なにを学ぶかーーが未来の人生を規定する。このような体験は、ある意味では人生の本質だ。世界を発見するために手足を伸ばす自由を謳歌することは、人間を人間たらしめている要素と言っていい。100年ライフでは、このように自分だけの冒険に乗り出そうとする人が増えるだろう。
 エクスプローラーのステージが最もうまく機能するのは、多様なものに触れ、真の実験がおこなわれるときだ。ラテンアメリカを旅しかジェーンは、ほかの人たちの生き方を目の当たりにし、自分の価値観とものごとの優先順位を改めて深く考えるよう背中を押された。この時期のジェーンには、人的ネットワークを広げ、その多様性を高めるための時間と意欲もある。人的ネットワークの多様性が増せば、ありうる自己像の多様性も増す。
 このステージを生きている人たちには、心理学的に興味深い点がある。エクスプローラーたちは、自分という存在の境界を押し広げ、固定観念から脱却し、ほかの人たちの行動をじっくり見る。マサチューセッツエ科大学(MIT)のオットー・ジャーマーの言葉を借りれば、「システムの端」に立ち、自分の思い込みや価値観に新しい光を当てるのだ。(p231-232)




創造性の集積地

 現在の18〜30歳の層にとっては、すでにインディペンデント・プロデューサーが人生の一つの選択肢になりはじめている。興味深いのは、それを実践する若者の大半が近くに寄り集まり、お互いから学ぼうとしていることだ。たいていは、第3章で論じた「スマート・シティ」の周縁部で生活している。ティーンエージャーという新しい年代が出現したとき、それを最初に目にとめたのはマーケティング専門家たちだった。ティーンエージャーたちが独特の消費パターンを示すからだ。それに対して、若きインディペンデント・プロデューサーたちの特徴は、消費に加えて生産の面でも互いに関わり合う点にある。彼らは都市の集積地(クラスター)に集まって生活し、独特のライフスタイルを形づくって生活と仕事をブレンドさせている。
 年長世代の起業家たちは油断なく知的財産権を守ろうとしてきたが、新しい世代のインディペンデント・プロデューサーたちは知的財産を公開し、ほかの人たちとシェア(共有)することを重んじる。まねされてコピーされることは、高く評価されている証し。コピーされることにより、評価が高まるのだ。模倣と複製は、アイデア、製品、企業といった概念も曖昧にする。創造性の集積地に集まる人たちがもっているのは、「みんな参加」の精神だ。この精神は、高い価値を生み出せる協働型の人的ネットワークの本質と言っていい。そのようなネットワークの中心に身を置き、充実しか人脈をもっていたり、新しいアイデアの生みの親とみなされていたりりることは、きわめて大きな価値のある無形の資産だ。それがその人の評判を高め、ひいてはのちに金銭的な恩恵をもたらす可能性もある。
 このように、情報を得る手段として、そして成功の指標として、ほかの人たちと結びついていることが重んじられるからこそ、「スマート・シティ」が成長を遂げ、多くのインディペンデント・プロデューサーたちを引きつけているのだ。
 注目されているのは、カリフォルニアのシリコンバレー、ロンドンのシリコン・ラウンドアバウト、インドのバンガロール、四川省の成都といったテクノロジー分野の集積地だが、インディペンデント・プロデューサーはこれらの土地だけで成り立つわけではない。今後はさらに集積地の数が増え、その重要性も高まるだろう。このステージでは、基本的に経験が大きな意味をもつからだ。ほかの人たちと離れて住んでいたり、デジタルな手段だけでコミュニケーションを取っていたりしては、たいてい目的を達せない。
 インディペンデント・プロデューサーたちにとっては、少ない所得でやりくりすることも重要だ。そこで彼らは、都市の中心に位置していて、しかも家賃や物価の安い場所を探す。その結果、こうした条件を満たした地区には、このタイプの人たち特有のライフスタイルが広がっていく。家庭生活と仕事と社交が同じ場でおこなわれ、仕事と遊びの境界が曖昧になる。また、有形の資産を増やすことが重んじられないので、マイカーより自転車を利用し、オフィスを構えずにコーヒーショップで仕事をする人が多い。
 こうした土地は、学習と実験の機会を欲している人、家庭生活のパートナーやビジネスのパートナーと出会いたい人、無形の資産に関する実験と投資に力を入れたい人を引き寄せる。そのような人たちは組織に雇われずに働くことに抵抗がなく、急速に進歩し続けるテクノロジーを活用して素早くプロトタイピングを繰り返し、アイデアを発展させていく。インディペンデント・プロデューサーが携わる仕事は、短期性が特徴だ。仕事は永続的なものではなく、意図的に短期間で終結し、不定期に発生するものにしてある。(p244-246)




ジェーンたちは、それ以前のどの世代よりも選択肢の重要性を知っていて、選択肢の探索・創造に多くの努力を払う。金融の世界の「オプション」と同じく、長期間有効な選択肢(=オプション)ほど価値が大きい。不確実性が高いときほど価値が高まる点も、金融のオプションと同じだ。長く人生を生き、大きな不確実性に直面する世代にとって、選択肢をもっておくことは、計り知れない価値をもつ可能性があるのだ。だから、この世代は結婚を遅らせ、子どもをつくるのを遅らせ、マイホームやマイカーを買うのを遅らせてきた。選択肢を狭めるような決断は先送りにするのだ。
 若い世代のこのような行動は、消極的な要因によっても突き動かされてきた。いま多くの先進国で、若者たちは年長世代に裏切られたと感じている。大学の学費ローンはそれまでの世代より重く、労働市場でも最初の職を見つけることが難しくなる一方だ。都市の住宅価格も、手が届かないところまで上昇している。その結果として、多くの若者はあまり資産をもたず、生計を立てるために工夫を凝らす以外になくなっている面もあるのだ。
 この世代は、選択肢をつくり出すことに腐心し、人生の道筋を確定させることを先延ばしし、柔軟性を維持することにより、これまで思春期の特徴とされてきた性質を保ち続ける。前述した若々しさとネオテニー(幼形成熟)を体現する典型例になるのだ。旧来の3ステージ的な発想では、このような若々しい生き方は間違っているように見える。実際、無責任だと批判されることも多い。しかし、マルチステージの人生の発想に立てば、それは無責任さの表れではなく、無形の資産への、とくに選択肢を生み出せる要素への投資に熱心な姿勢とみなせる。昔ながらのキャリアの道筋を歩んできた人たちがこの点を理解できないと、世代間の相互不信に拍車がかかる。「ミレニアル世代」や「Y世代」へのレッテル貼りにつながるだけだ。
 人生が長くなれば、大人への成長のプロセスに費やす期間を長くするために、寿命が延びて増えた時間の一部を振り向けることが合理的に思える。思春期後(ティーンエージャー後)の人たちに適した新しい人生のステージが出現するのは、そのためだ。(p254-255)



O1 あなたが銀行に100ドル預けていて、利息は年に2%だとする。預金を引き出さない場合、5年後にはいくらになっているか?
Q2 預金の利息が年に1%で、インフレ率が年に2%だとする。1年後、あなたがその口座のお金で買えるものは増えるか、変わらないか、減るか?
Q3 「一つの企業の株式を購入することは、投資信託を買うより一般に安全性が高い」この主張は正しいか、間違っているか?
Q4 「15年物の住宅ローンはたいてい、30年物の住宅ローンに比べて月々の返済額は多いが、返済する利息の総額は少なくて済む」この主張は正しいか、間違っているか?
Q5 金利が上昇したとき、債券の価格はどう変動するか
 この五つの問いにすべて正解できれば、あなたは金融リテラシーで上位4分の1に堂々と入れる。(p274)




未来の自分を守る

 将来の資金計画を立てることに気が進まない人が多い一因は、老いた自分を想像しなくてはならないからだ。自分が老いて弱々しくなっている姿を思い浮かべることが不愉快な人もいるかもしれない。平均寿命が延びて不健康期間が短縮すれば、高齢になっても心身ともに元気でいられるようになるが、それは老いる時期が延期されるだけにすぎない。そのときが訪れなくなるわけではないのだ。
 双曲割引の落とし穴にはまらないためには、健康を増進したり、資金状態の健全性を高めたりするなど、未来の自分に恩恵をもたらす行動を取るよう自分を縛る必要がある。未来の自分を守るための行動をいま取るべきなのは、双曲割引の落とし穴だけが理由ではない。多くの研究により、金融リテラシー、とりわけ分析能力は、老化とともに低下することが明らかになっているのだ。ある研究では、さまざまな年齢層の被験者に、さまざまな認知スキルを試す問いに答えさせた。すると、50歳以降、分析能力は目を見張るほど落ち込む一方だったという。お金に関する分析能力が最も高いのは、40代後半から50代半ばだった。
 もちろん、これはあくまでも平均の話だ。すべての人に当てはまるわけではない。それでも、ここから興味深い現実が見えてくる。お金に関する良質な判斯は、経験および知識と、分析能力の二つの要素に軸足を置く。若者は、明晰な分析能力をもっているが、金融商品に関する経験と知識が乏しい。一方、年配者は、経験と知識は豊富だが、分析能力は減退しはじめている。そのため、経験および知識と分析能力の総和が最も大きくなる40〜50代に、金融に関する判断能力が最も高まるのだ。
 したがって、判断能力が最も充実している中年期に将来の資金計画を立てるのは、理にかなっている。高齢になって判断能力が衰えはじめてから、貯蓄不足を解決するための策を講じようと焦るのは、賢明でない。(p286-287)




人事の一大改革が必要

 以上の提案を実践しようと思えば、企業の人事部門の制度や手続きに一大改革が必要だ。抵抗は大きいだろう。一つには、画一的で予測可能性が高い現状を捨てたくないと思うからだ。従業員の年齢を見るだけで、その人物がなにを求めているかを判断できるのは、企業にとっては都合がいい。それが変わってしまうと、標準的な労働時間と退職年齢を数パターン用意するだけでは不十分になり、もっと幅広い選択肢を用意し、個別の交渉にも応じなくてはならなくなる。マネジメントが複雑になるし、従業員の間に手続き面で不平等が生まれる危険もある。交渉が上手な人ばかりではないからだ。企業が変化を遂げることは難しく、前進するための道ははっきり定まっていない。多くの企業が変革に抵抗することは避けられないだろう。
 企業が変革に強く抵抗する理由はほかにもある。複雑性を受け入れることには、コストがともなう。とくに経済状況が苦しい時期には、標準化されたプロセスが好まれる傾向がある。100年ライフにふさわしい柔軟性を保つことは、一部の人の目には非効率にしか見えないかもしれない。
 この点が大きなテーマになるのは、歴史上はじめてではない。産業革命の大きな特徴の一つは、企業が労働時間の標準化と画一化を求めたことだった。ほとんどの企業は、産業革命前の不規則でケースバイケースの労働時間を非効率だと感じていた。企業は工場や機械に莫大な投資をしており、それを最大限有効に活用するためには、それらをつねに画一的に用いる必要があったのだ。このような企業のニーズに応える形で、週6日72時間労働が導入された。当然、労働者は反発した。働き方の変更を強いられ、柔軟性も奪われたからだ。私生活や家庭生活のあり方も変えざるをえなくなった。しかし、このときは企業側の意向が通った。その後も、企業と労働組合の間で労働条件の見直しが交渉されてきたが、企業はあくまでも標準化を望み、労働時間こそ減ったものの、働き方の柔軟性が認められることはなかった。
 今後も、標準化を求める企業の意向が通り続けるのか? ジミーやジェーンがなにを望もうと、企業はビジネス上の理由でその求めをはねつけるのかもしれない。しかし、ほとんどの企業はなんらかの形で働き手の要求を受け入れるだろう。
 一つには、今日の経済の性格が産業革命の時代とは大きく変わっているからだ。いま最も付加価値の高い産業は、物的資本ではなく、人的資本に基礎を置いている。そのため、高いスキルをもつ働き手の交渉力が強まっているのだ。多くの高付加価値産業で柔軟な働き方と引退の形態が導入されはじめている理由は、まさにこの点にある。この流れは、さらに加速するだろう。人材争奪戦が激化し、創造性とイノベーションの重要性がいっそう高まる結果、多くの企業は優秀な人材の獲得とつなぎとめを強く望み、そうした人たちの要求に耳を傾け、それを受け入れることに前向きになる。
 機械の性能がますます向上していくことも見落とせない。これにともない、中スキル・中賃金の雇用の空洞化が進むだけでなく、職種ごとの違いが広がり、働き方の多様性も拡大する。機械と人間か協働する職種では、柔軟な働き方を実践する余地が大きくなるかもしれない。仕事の定型的な側面を機械に任せればいいからだ。テクノロジーの進歩には、組織内での調整をしやすくする効果もある。データ分析の導入が進めば、企業側は標準化を放棄しても、多くのコストを負担せずに多様な働き方に対応できるようになるだろう。協働のためのテクノロジーにより、チームのメンバーが結びつき、一人ひとりの仕事ぶりがつねに監視・評価されれば、柔軟な働き方を実践しやすくなる。それでも、標準化されたシンプルな制度つまり、会社にとって都合がよく、働き手にとっては都合のよくない制度を手放さない企業はけっしてなくならない。人材の重要性が高い高付加価値産業を中心に、多様な働き方の選択肢を示すことが戦略上の大きな強みになると気づく企業は増えるが、すべての企業がそれを採算上得策だと考えるわけではないのだ。そこで、政府と社会は大きな課題を突きつけられる。希少な才能の持ち主は、企業に対する交渉力が強く、充実した選択肢をもてるので、自分の人生を思いどおりに構築して、100年ライフの恩恵に最大限浴することができる。しかし、このような交渉力と選択肢をもてる人ばかりではないのだ。(p376-379)
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